2009年10月29日

「史上最強バルセロナ 世界最高の育成メソッド」/ジョアン・サルバンス

『ガンバはジョアン・サルバンスにコーチとしてオファーを出してしまえ。
 他チームに引き抜かれる前に。』


本書を読み終えてまず最初に抱いた感想がこれだった。






「最強」「最高」という、野菜マシマシニンニクチョモランマ的装飾過剰なタイトルのように思えるが、
FCバルセロナが実際にここまで積み上げてきた実績を考えればこんなタイトルもアリだわなと言ったところ。

著者のジョアン・サルバンスはスペイン・カタルーニャ州出身。
地元のVIC(ビック)という3部のクラブでユースからプレーし、
トップチームに昇格しようとした時に大きな怪我をしてしまう。
チームから離脱していたその時期に「子供たちの指導をしてみないか」と声をかけられ、
その後指導者としての道を歩み始めた。
初めは地元の小さなチームで指導をしていたが、
そこでの実績が認められFCバルセロナに下部組織の指導者として招聘される。
ショウヘイヘーイ。

そんなバルサのカンテラでボージャン・クルキッチやジョバニ・ドス・サントス、フラン・メリダを育てた著者が公開する育成メソッド。

−目次−
序 章 バルサのサッカーは日本にもできる
    スペイン史上初の三冠
    バルサから夢のオファー
    スペインと日本の子供たちの違い

第一章 カンテラこそが、バルサの強さの源
    カンテラ史上最高のチームを指揮して
    天才をさらに伸ばす
    進化する背番号4
    日本人の資質は劣っていない
    小さくても心配することはない
    バルサの指導者になるということ
    カンテラまで浸透しているバルサの哲学
    選手の信頼を勝ち取るには
    カンテラでも問われる試合内容
    カンテラは金の卵の宝庫
    マシアで大人になる
    2年間は面倒をみる
    規律正しいスターが生まれる理由

第二章 バルサに近付くために
    明暗を分けるのは「サッカーを読む」トレーニング
    個人でサッカーを読む
    グループでサッカーを読む
    プレーに方向をつける
    フルピッチでの応用
    ゴールチャンスを生む
    タッチ数の制限は、状況判断を阻害する
    ゴールキーパーは攻撃の起点
    ユース年代にオフがないのは日本だけ
    トレーニングは量ではなく質
    勝者のメンタリティは、猛練習では身につかない
    実戦に即した「グローバル・トレーニング」
    心身のベストコンディションの作り方
    個性と役割に即した指導を
    ポジションを固定しない

第三章 優れた指導をするために
    誰よりも厳しい自己批判を
    蹴り飛ばすことは誰にでもできる
    対話で選手の意識を変える
    修正は納得させてから
    「気持ちで負けた」は安易な分析
    百聞は一見にしかず
    頭の悪い生徒はいない
    育成段階で無理は禁物
    逆境は成長のチャンス

第四章 世界を追いかけるために
    欧州と日本の差は、真剣勝負の機会の差
    J1リーグはリーガ2部
    良い素材は積極的に欧州へ送り込むべきだ
    走るのは、人ではなくボールだ
    バルサ流改革
    ボールを失わないのが最高の守備
    涙を流すのはまだ早い
    マジックワード
    日本の子供たちの未来

謝辞
千載一遇のチャンス───あとがき


「これまで培ってきた育成に関するメソッドを公開」と聞くと、いったいどんな名伯楽が書いた本なんだろうという先入観を持ってしまいそうになるが、このジョアン・サルバンスは1974年生まれと非常に若い指導者である。
しかしながらそのキャリアはFCバルセロナ、RCDエスパニョールなどの下部組織で監督を務め、すでに14年という長さ。現在は東海大菅生高校中学サッカー部のコーチとして日本で活動中。


彼の指導哲学は明確だ。
選手を観察し、最高のアドバイスを与え(あるいは与えず)、子供たちに敬意を持って接し、新たなステージへと引き上げる手助けをする。
シンプルで奥深い。
その育成のために幅広い数多くの引き出しと豊富な知識を有し、かつ、それを日々アップデートさせ欧州の最新事情にも精通しつつ、日本サッカー界の事情にも明るい。


ジョアンは言う。
日本の子供たちの質は非常に高く、決して欧州の同年代の子たちにひけを取るものではない、と。
しかし20代になる頃には大きな差が付いている。
これにはいくつか理由が考えられるが、一番の違いは「その年代まで何をしてきたか」である。
その「何を」の部分を本書ではジョアンの体験を交えながら詳しく語ってくれている。


この人のサッカー哲学、志向するサッカーというのが非常にバルサ的である。
攻撃的。ボールを失わないのが最高の守備だと言う。
クライフの在任中に確立された「美しく勝つ」というバルサのスタイル。
FCバルセロナではそういうクラブの志向に適した指導者しか招聘しないそうだ。
バルサから指導者にとオファーが来たのもそれゆえなのだろう。

ポゼッションを高め、攻撃の機会を増やせば守備に回る時間は減る。
当たり前のことだ。
なので、おのずと普段のトレーニングで守備に割く時間もそれほど必要なくなる。
サッカーにおいては守備と攻撃は分けて考えるものではないということがよく分かる。
「守備練習をもっとするべき」なんていう意見をたまに見かけたりするがそういうのはナンセンス。
もちろん基礎的な守備のトレーニングには取り組む。
個人ディフェンス、ディフェンスラインの統率、チームディフェンス、プレッシング、カバーリング、スライド、リトリート等。
しかし何よりボールを持つ時間が長ければ、その分相手は攻めることができない。
チャンピオンズリーグという一流の選手が集まる世界最高の舞台で、ポゼッションが60%を越える(60%を越えると試合はほぼ一方的な展開になる)ことができるバルサのサッカーは、こういうカンテラ世代からの育成を礎としながら積み上げられたものなのである。
そしてカンテラの指導者たちはそういった技術を身に付けさせるためのあらゆる術を心得ている。

身体の大きな選手が多いチームが勝つのではない。
走る量が多いチームが勝つのではない。
サッカーの歴史を振り返ってみても、クライフ、ライカールト、グアルディオラのバルサ、サッキのミラン、ジダンのいたフランス代表、スコラーリのブラジル代表、ルイス・アラゴネスの2008年スペイン代表。
どれもボールをしっかり動かしたチームが成功しているとジョアンは説く。
同じ走るにしても、重要なのは正しいタイミングで正しく走ること。


そしてまた著者は日本におけるありがちな指導の問題点、制度としての欠陥も指摘する。

中学年代、高校年代は選手の成長にとって非常に重要な時期でありながら、日本では公式戦が非常に少ない。
公式戦という真剣勝負は選手にとって最も得るものが多い場である。
しかも日本では中学、高校と3年ごとに分けられたカテゴリーのせいで主に上級生が試合に出ることになりやすく、下級生には実戦を経験する場がさらに少ない。
そしてその公式戦もホーム&アウェイのリーグ戦が少なすぎる。
コンスタントに経験を積める機会が得られない仕組みになっているのだ。
トーナメント戦を好む日本人の国民性も影響しているのかもしれない。
日本協会もリーグ戦を増やそうという努力しているが、まだまだ少ないというのが現状だ。
欧州と単純に比較はできないだろうけれど、こういった部分はこれからの課題だろう。


そして若く才能のある素材はなるべく早く欧州に送り込むべきだとも。
ヨーロッパのトップレベルに上り詰めるなら18歳をメドにチャレンジしたほうが良いと。
本場のトップレベルで経験を積み、代表に還元し、現役生活の晩年にはJに戻ってその経験を伝えることもできる。
長期的な視点に立てば、それが日本サッカーの全体的なレベルを引き上げることになるだろうと。
そういう意味でこのジョアンは宇佐美貴史なんかも積極的に挑戦して欲しいと書いてるのだが、ガンバ的にはうちのトップで活躍する前にヨーロッパ移籍されてもなぁといった感じだw


ジョアンの当面の夢は日本で確固たる実績を残すことだそうだ。
現在コーチをしている東海大菅生高校でもジワジワと結果を出し始めているらしい。
日本サッカー界はこのチャンスを活かすべきなのかもしれない。
こういった有能でプロフェッショナルなコーチが現在日本にいるチャンスを。
まぁガンバの監督に、とまでは言わないけれども、良い素材が集まるガンバの下部組織で指導をしてもらって「サッカーを読む力」を伸ばしてもらうのもいいんじゃないかと思ったりもした。


とにかく非常に興味深い本でした。
育成に関わる人にとって有益な話だけではなく、サッカーを観るファンにとっても観戦術を身に付けるという意味でも楽しめる内容だと思う。
1日かからずにサクッと読めて面白かったです。






そんなジョアン・サルバンス本人のブログはコチラ
ブログもなかなか面白い。


てか、なにこのジョアン・サルバンスマンセーなエントリw
俺はこの人の親戚か何かかw


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この記事へのコメント
僕もこの人に一票入れます!

てゆーかこの人の名前を知ってたわけじゃないけど、バルサでの指導歴を持つ人をスカウトするべきだ、て漠然と妄想してました。しかも日本に居るなんて!!

西野監督が今のガンバのスタイルを確立してくれたのは分かってるし、当然応援もしてます。だけど、下部組織を充実させて、ゆくゆくはバルサのように、て言うのがガンバ大阪だと思うし。ガンバがマンUになるのも、西野さんがファーガソンになるのも、あまりイメージしたくないです。

あとは弱化部長をどry
Posted by wsui at 2009年10月29日 01:27
かなりwktkな本ですね。
シウヘイさんのエントリー読んだだけで、ニヤニヤしてしまいましたw

すぐに本屋へ買いにいってきます。
Amazonでなくてごめんなさいw
Posted by naoki at 2009年10月29日 13:03
>wsuiさん
なんかユースとかジュニアユースの監督とかしてくれたらヨサゲな感じしますよねw
トップの監督にはまだどうかなぁという感じだけど。

>naokiさん
面白くてどんどん読み進めちゃいましたよ。
本屋で買うことをオススメしますw
その方がすぐ読めるしねw
Posted by シウヘイ at 2009年10月29日 13:49
前の記事から二週間以上も間隔空いたのはこの本読んでたからなんですねショウヘイさん。
サッカー本は色々出版されてるけど興味をそそられるのはあまりなかったので早速読みますわ。

川渕三郎「Jの履歴書」も読む予定です。
Posted by キッザニア at 2009年11月02日 08:42